大判例

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東京家庭裁判所八王子支部 平成4年(家)1949号

主文

未成年者の親権者を死亡時の本籍東京都青梅市○○×丁目××番地の××亡甲野花子から申立人に変更する。

理由

1  (申立)

申立人は本件未成年者甲野春子の親権者を母である亡甲野花子から父である申立人に変更することを求めた。

2  (事実)

本件記録および東京家庭裁判所八王子支部平成4年(家)第××××号後見人選任申立事件記録中の各戸籍謄本、住民票写し、家庭裁判所調査官作成の調査報告書等の証拠に申立人と丙川梅子の各審問の結果を綜合すると、次の(1)ないし(11)の事実が認められる。

(1)  申立人と亡甲野花子(以下、亡花子という)は平成元年6月2日に婚姻した夫婦であって、その間に平成2年7月6日に長女である本件未成年者甲野春子(以下、未成年者という)が出生しているが、申立人と亡花子は平成4年3月18日に未成年者の親権者を母である亡花子と定めて協議離婚した。

(2)  申立人と亡花子は離婚に先立つ平成3年7月頃から別居し、亡花子は未成年者と生活していたが、別居してしばらくした頃から亡花子は精神状態が不安定になり、体調も崩して、亡花子の母である丙川梅子(以下、梅子という)が未成年者を預かることもあった。

(3)  ところが、平成4年6月24日、亡花子は自宅で首を吊って自殺し、未成年者は親権者のいない状態となった。亡花子の第一発見者は申立人であった。

(4)  亡花子の葬儀は申立人の実家(両親方)で平成4年6月26日に行われた。亡花子の死亡でショックを受けた梅子の申し出で未成年者の養育監護を当面梅子が行うことが梅子と申立人との間で話し合われ、未成年者は同日梅子方に引き取られた。そして、この状態はとりあえず亡花子の49日あたりまでということで両者の了解があった。

(5)  申立人は葬儀当日から1週間位は毎日梅子方へ来て線香をあげていたが、平成4年7月5日に来たときに未成年者の引き取りについて申立人と梅子の間で口論があり、その後梅子方への申立人の来訪は途絶えていたのであるが、同月21日に来訪した申立人と梅子との間で、たがいに相手が亡花子を殺したのだといいあってまた口論になり、以後申立人は49日の法要の際も含めて梅子方に来訪することなく、今日に至っている。

(6)  申立人は実父として未成年者を引き取り、自らの手元で養育することを熱望している。現在未成年者が梅子やいっしょに暮らしている梅子の内縁の夫の乙山太郎(以下、乙山という)にかわいがられ、心身とも安定した状態にあることは認めるが、長い将来のことを考えると結局は申立人が未成年者といっしょに生活することがよいと考え、そのために一日も早く未成年者を引き取っていっしょの生活を始めたいと思っている。これから未成年者を引き取るとすれば、当面は未成年者が申立人に馴染まず精神的に混乱することは覚悟しているが、未成年者のペースに合わせて気長に未成年者とつきあっていくつもりでいるし、梅子が未成年者と会うことも認めるつもりでいる。現在、申立人は梅子方へ行って未成年者に会うことをしないでいるが、それは亡花子の死亡の原因を巡る感情的なものに端を発する梅子や乙山との対立紛争が理由であって、未成年者の様子を絶えず気にかけており、保育園の行き帰りなどに遠くから未成年者の姿を見かけることで我慢している。

(7)  申立人は少年時に道路交通法違反や傷害事件で補導歴があり、平成4年になって背中等に「入れ墨」をしている。高校を中退して土建業手伝い、トラック運転手などの仕事についていたが、平成2年に独立して砂利採取業(有限会社組織、実父が社長)を始めた。事業は順調であり、申立人も毎日仕事にせいを出し、経済的な不安はない。申立人は現在ひとりでマンションに居住しているが、未成年者を引き取った場合は申立人の父母や妹等親族の協力を得て未成年者の養育監護にあたる方針で、申立人の父母と独身で27歳の妹の居住する実家に申立人もいっしょに住み、申立人自身未成年者の保育園への送迎などできるだけの世話をし、母と妹に協力してもらう予定で、同女らも協力を惜しまないといってくれている。申立人は正業についている社会人であり、客観的な居住環境、人的な資源等の面では未成年者の成育環境として(父母離婚の家庭としては)適格であると思われる。

(8)  梅子は昭和56年頃から内縁の夫婦として同居している乙山との生活の中で孫である未成年者を引き取り、現にいっしょに生活しており、乙山とともに保育園への送迎を含めて未成年者の日常の生活万端の世話をし、日に日に未成年者への愛着を深めている。梅子は亡花子の死亡直後には未成年者を実父の申立人に引き渡さなければならないと考えていたが、前記(5)掲記の申立人との対立紛争やその結果未成年者がそのまま手元にいて自分や乙山を慕っている事態にあって、また申立人の過去の行状や亡花子の死亡に際しての申立人の態度から申立人に未成年者を任せることに不安を感じ、現状のまま自分と乙山の家庭において未成年者を養育することが未成年者の福祉幸福に合致すると思うようになり、また感情的にもそれを強く希望するようになっている。

(9)  梅子は現在53歳、最初の婚姻で亡花子らの3児をもうけたが交通事故で夫と死別し、その後再婚して1児をもうけたが離婚し、やはり1児をもうけたが離婚している乙山と内縁の夫婦としていっしょに生活し、マンションの1階の一部を賃借して乙山が経営しているとんかつの店「○○○○○○○」を手伝っている。そして同じ建物の2階に居住(賃借)している。梅子も乙山も健康であり、店の経営も順調で、生活は安定している。未成年者の成育環境として、現状は物的、経済的にも人的な資源の面でも特に問題は見られない。

(10)  未成年者は年齢が年齢(梅子方で生活をはじめたのが満2歳になる直前、現在2歳8月)であり、梅子方での生活が長期間継続し、前記(5)掲記のように申立人との交渉がない状態が続いていることもあって、梅子方での生活に安住し、梅子や乙山を生活の中での最も親近な者として受け入れており、その中で通園している保育園にも馴れ、健康状態もよく、心身ともに現在の状態に安定していることが認められる。したがってこの段階で申立人方に引き取られ生活環境が激変することは、少なくとも一時期未成年者に心身にわたる大きい衝撃を与えることになるものと推察される。

(11)  梅子は平成4年9月21日、東京家庭裁判所八王子支部に同庁同支部同年(家)××××号をもって未成年者につき後見人選任の申立をし、同年10月1日付で申立人梅子を未成年者の後見人として選任する旨の審判がなされた。この審判においては梅子のみが審問され、審問、家庭裁判所調査官の調査その他の方法によって他の関係者について意向聴取その他の事実調べが行われた形跡はないし、本件申立人もこの事実を知らなかったものと認められる。

3  (判断)

以上の認定事実に基づいて判断する。

問題はいうまでもなく、未成年者の福祉幸福のために、申立のとおり親権者を母である亡花子から父である申立人に変更し、今後は未成年者を申立人が養育監護していくことがよいのか、それとも本件申立を却下して、後見人である梅子が現状のまま未成年者の養育監護にあたっていくことがよいのか、ということである。本件においては、申立人は未成年者を引き取った場合には自分が親権者として未成年者の養育に責任をもってあたっていく意思を有していることは十分認められるし、そのための物的、経済的、その他の客観的条件も具備し、その任務を遂行する能力も十分あるものと見られ、その意味では申立人が親権者になって未成年者の養育にあたることが未成年者の福祉幸福にとって安心してよいかたちであることには間違いないものと思われるし、また一方、梅子も現状のまま未成年者を養育していく意思を有していることは十分認めることができるし、そのための物的、経済的、その他の客観的条件においても心配になることはなく、それはまた現在の実績から安心できることでもあるし、梅子が未成年者を養育していくことが未成年者の福祉幸福にとって安心してよいかたちであることも間違いないものと思われ、結局比較してそのどちらが「他方より」望ましいか、という問題である。梅子の側では申立人が未成年者を養育していくことについて不安疑問を抱いているが、本件の場合申立人の養育能力、義育適格についてこれを否定ないし疑問視するような特段の事実は認めるに足る証拠はない。といっても、本件の場合、そのどちらが未成年者に対してより強い愛情をもっているか、どちらが物的、経済的、その他の客観的な条件という意味で未成年者によりよい成育環境を提供できるかという「僅かな」、決定的とはいえない違いの「比較」「優劣」によってそのどちらかに決めるということではなく、むしろ二つの性質的に異なった成育環境のどちらを選ぶのか、ということなのであろう。

そしてこの場合、重大な意味を持つのは、やはり申立人が未成年者の生物的に実の父であるということであり、実質的にも父に値いするということであろう。そしてまた、ここでは家族とか親子関係とかいうことについての現在のわが国社会の普通の見方は重視せざるを得ないであろうし、また梅子の年齢等の本件諸事情を踏まえ、今後未成年者が成年に達する頃までの長期的な展望をもって見るならば、当面は環境を変えることが未成年者の精神状態に混乱をもたらし、未成年者に苦痛を与えるであろうことは容易に察することができるのではあるが、ここでその障壁を乗り越えさせて、一日も早く、父である申立人のもとでの生活に入らせ、親との生活という現在求め得る最も普通な成育環境の中で成育させることが「自然」というものであり、結局はそれが未成年者の福祉幸福につながる最上の途ということがいえるのではないのだろうか。

4  (結論)

以上のとおり、諸般の事情を綜合勘案すれば、この段階で申立人が未成年者の親権者となることが未成年者の福祉に合致するものと認められるので、未成年者の親権者を亡花子から申立人に変更することを求める申立人の申立は理由がある。(この審判の確定によって未成年者についての後見人梅子の後見は終了する)

よって主文のとおり審判する。

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